Far East Movement「Fighter」PVに映る白黒映像の意味と背景について

2016年に発売されたFar East Movementのアルバム「Identity」の中から、「Fighter」という曲が意味深な編集でとても印象深いので、ミュージックビデオについて分析してみました。

Identity

Far East Movementとは

Far East Movementはロサンゼルスのコリアンタウンを拠点に活動する4人組アジア系ヒップホップユニット。韓国系アメリカ人、日本・中国系アメリカ人、フィリピン系アメリカ人で構成されている。2010年にリリースされた楽曲「Like a G6」はBillboard Hot 100で1位を獲得し、アジア系ユニットとして初の快挙を成し遂げた。

Far East Movement - Fighter

Fighterが訴えるもの

Fighter」はFar East Movementと、韓国人の母とアフリカ系アメリカ人の父を持つ韓国人歌手ユン・ミレとのコラボ曲。困難に打ち勝とうとするファイターとして前向きな歌であると同時に、ミュージックビデオでは戦争から逃れアメリカに移住する韓国人たちの映像が白黒で流され、アジア系アメリカ人(特に韓国系アメリカ人)に焦点にあてた点が印象的だ。

朝鮮戦争と移民

現在、アメリカに住む韓国系アメリカ人は約170万人でアメリカ総人口の約0.6%。アメリカに韓国人が最も多く移民したのは1980年代からで、経済発展に伴い子供達に早期英語教育を受けさせるための「教育移民」が増加した。
一方で、MVの白黒の映像に映る韓国人たちは主に朝鮮戦争終結後か、それ以前に移民した人々である。1952年に、韓国に対し「移民国籍法」が適用され年間100人の移民枠が割り当てられた。朝鮮戦争終結後の1953年から1963年にかけても、米軍人と結婚した韓国人女性や、養子として引き取られた戦争孤児などが多数アメリカに移民した。

Far East Movementは、この歌でアジア系アメリカ人に焦点を当てた理由として、MBC(2016)で以下のように説明している。

僕たちが歩んできた道のりをこのMVに込めたかった。僕たちの親世代たちが移民に来て辛かった暮らしをこのMVに間接的に表現したかった

MVで、ユン・ミレさんが歌を歌うのはLAとソウルの建物の間だ。LAはFar East Movementの出身地であり、古くから労働力としてのアジア系移民を受け入れ、韓国系アメリカ人が一番多く住む街。

Far East Movement - Fighter

「韓国語でラップしているの?」「それ本気?」

Fighter」の歌詞には「With my back against the wall」や「Knock me down」などの困難な状況を思わせる歌詞が目立つ。ここでの「難関」や「困難」は主に、韓国人たちがアメリカに移住した当時の困難の状況と、Far East Movement本人やアジア系アメリカ人たちに対する差別や偏見とみることができる。アジア系アメリカ人の音楽グループに焦点をあてたドキュメンタリー映画「Future Rock Stars of America」でFar East Movementは、アジア系アメリカ人がヒップホップをすることへの偏見やステレオタイプがあると語っている。

普通の会話の中で仕事は何をしているのとよく聞かれるでしょ。そこで俺は「ラッパーだよ」と答える。すると相手は「韓国語でラップしているの?」って驚かれるんだ。「英語でラップしているよ」と答えると、「それ本気?」って変な目で見られる』

『アジア系ラッパーと言っただけで笑われることがよくある。人種差別が存在することは分かっている。でも同じアジア系からも笑われることだってあるんだ。それっておかしいだろ

(Future Rock Stars of Americaより一部抜粋,2005)

ブラックミュージックのイメージがあるヒップホップをアジア人がするということに対する偏見や差別があった。

Far East Movement - Fighter

前向きに生きるメッセージ

一方、MVには困難な状況だけでなく、前向きに生きていこうというメッセージも感じられる。「Knock me down but I’ll keep fighting For you till the end we’ll keep on trying Like a fighter」という、偏見や差別を乗り越えたいとする歌詞と同時に、「Baby it’s up to you Whatever you wanna do」は、Far East Movement自身や広くアジア系アメリカ人たちに向けたメッセージと受け止められる。

上記のドキュメンタリー映画はFar East MovementがBillboard Hot 100でアジア系ユニットとして初めて1位を獲得する前に撮影された映画だが、その中で、メンバーの一人が「人種の壁をぶち壊せるようなきっかけが、何か1つあればいいのだが…」と語る。1位を獲得することが偏見をなくす一助になったのは間違いないだろう。

Far East Movement本人たちの経験も交え、アジア系アメリカ人たちに勇気と希望を与えようとする意志をMVから読み取ることができる。MVでユン・ミレさんが立つところの後ろには太陽の光が照らしている。これらの光景と、「Tell me what’s the next step?」という歌詞からは希望の光や可能性を示しているように感じとれる。

アジア各国から多くが移住するアメリカ

現在アメリカではトランプ大統領の移民政策に伴い人種問題に関心が集まるが、「人種差別」として取り上げられる問題の中心はアフリカ系、イスラム系、メキシコ系が多く、アジア人が話題の中心になることは比較的少ないという(グットイヤー,2017)。
よって、Far East Movementの活躍はアメリカでのアジア人の立場を確立するきっかけになるだろう。同時に、「Fighter」のMVはアジア系アメリカ人の存在や歴史を示す上でも大きな意味を持つと考える。

Far East Movement - Fighter

参考文献

この記事を書いた人

@picomac

現在、都内大学生に通いながら就活中。映画、アートに興味があり、特にアジア映画のレビューやレポートを投稿すると思いますが、都内スイーツや食べ物処などもアップ予定です。よろしくお願いいたします。